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「お疲れさまでした。すみません、帰りも運転お任せしてしまって」 「運転できんのか、おまえ」 「免許を取ってまだ一年経ってないので、公用車を運転する資格がありません」 「あっそ」  一切の期待を放り投げた声で応じて、先輩がエンジンを回す。 「うん?」  回す。 「な、なんか、変な音してません?」  先輩は真顔のままだが、ぎゅるぎゅる、ぼすんとエンジンは不安になる音を立てるばかりだ。先輩が無言のまま、もう一度エンジンキーを回した。ぼすんとまぬけな音を最後にエンジンが無音になる。 「あの、先輩」 「……エンスト」  ぼそりと嫌そうに先輩が言う。その横顔はまるで不貞腐れた三歳児のようだった。さすがにそんなことは言えないので、代わりに「バッテリー上がっちゃいましたかね」と尋ねてみる。  決して新しいとは言えない公用車だが、破滅的に古いわけでもない。エンジンキーを無言で凝視していた先輩が、ちらりとあたしを見た。 「手ぇ伸ばして、ちょっと回して」 「はい?」 「そこから手ぇ伸ばして、エンジン回せって言ったんだよ」  あたしが回したところでなんの意味もないんじゃないかな。疑ったものの、先輩のご機嫌のほうが最優先だ。  失礼しますと断って、手を伸ばす。そんなわけあるかと思いながら回したエンジンは、あっけなくかかった。一発で。 「……」  思わず先輩の横顔をガン見してしまった。その視線を完全に無視して先輩は「よし、帰るか」と呟いた。アクセルを踏み込む。  ……って、ふつうに動いてるし。  謎過ぎる。公用車はそれ以降なんの不調もなく走り続けた。もう突っ込むのはやめにしよう。無事に市道に出たあたりで、あたしは肩から力を抜いた。  襲いかかってくる眠気を追い払っているうちに、公用車は無事に市役所に到着した。
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