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「あたしが先輩のことを一方的に知ってただけ、だし」  言っていてなんだか空しくなってくる。空笑いをしたあたしをしみじみと見つめていた夏梨ちゃんが肩をすくめた。 「はいはい、そういうことにしておきましょうか」 「そういうこともなにも、そういうことだし」  自分で作ったお弁当を箸でいじくる。だって本当に、そういうことでしかないし。溜息を吐くと、夏梨ちゃんが小さく眉を上げた。 「というか、それだけ言われて、よくけろっと『先輩』って呼べるわね、あんた」 「え?」 「え? って。あんたの話を聞いた所感なんだけど。昔のこと引っ張り出されて『先輩』呼ばわりされたくなかったんじゃないの、その最上さん。イメージもえらく変わっちゃったんでしょ」 「で、でも」  なんとなく主張したくて、あたしは反論を試みた。 「先輩は先輩だし、それに、照れ隠しみたいなもんじゃないかなとも思って」  だって、七海さんいわくの野生動物だし。たしかに最初に「先輩」呼ばわりするなとは言われたけど、それ以降は訂正されていないし。 「それに、まぁ、もし本当に嫌がってたとしても、逆にちょっとくらいいいかなみたいな」 「本当に無駄にポジティブよね。というか、逆になにがいいのか教えてほしいんだけど」 「いや、まぁ、ちょっとくらいは嫌がらせしてもいいかな的な」  というのは冗談だけど。はははと笑ってから、真顔の夏梨ちゃんに気づいて首を傾げる。なに、その顔。 「そうか。いい度胸だな、三崎」 「せ、先輩ぃ!?」  突如として背後から響いた声に、あたしはワンテンポ遅れて叫んだ。机に手を付いて立ち上がる。  恐る恐る振り返れば、分厚い眼鏡ともっさりした前髪で表情はまったく見えないものの、怒っていること間違いなしの先輩が立っていた。 「外に出るぞ。おまえもとっとと準備しろ。探しただろうが」  昼休みと言ったところで、言い訳になるわけがない。あたしはまだ半分ほど残っているお弁当を包み直して、半泣きで夏梨ちゃんに手を合わせた。ごめんね。  夏梨ちゃんは、笑い出したいのを我慢しすぎた、みたいな顔で頬を引きつらせていた。
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