プロローグ

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**  なにがあっても「よろず相談課」になんて自分が異動になることはない。なんならあと二年はここにいる。  ……なんて。あるかもしれない可能性を度外視して、笑っていた天罰かなにかなのだろうか、これ。  異動者名簿の一ページを見つめたまま、あたしの思考は完全に停止していた。「マジで?」「マジだよ」「マジでよろ相だよ」なんて声がさざめきのように襲ってくる。  神様、仏様、天国のおばあちゃん。  あたし、そんなになにか悪いことしましたでしょうか。よく知りもしない部署のことを「まさかぁ」などと言い放った報いでしょうか。  終業時間の十七時半を過ぎているけれど、課内はほとんど全員が残っていた。辞令発表の日だから、うちの課のみならず一階全体が騒めいている。  お隣の福祉課は、予想外に異動人員が多かったらしく阿鼻叫喚のご様子だ。あたしの心も阿鼻叫喚だけど。 「三崎ちゃん、三崎ちゃん」  優しい声とともに肩を叩かれて、はっと我に返る。顔を上げた先には、声同様の優しい笑顔があった。 「あ、有海さん……!」  新卒で配属されたときからずっと、優しく指導してくれた大好きな主任さん。 「三崎ちゃんがいなくなったら寂しくなっちゃうけど、がんばってね」  聖母マリアさまもかくやとばかりの笑顔でぎゅっと手を握られる。通常の五割増しのほほえみだ。いつもなら癒されるところだけれど、不安は晴れるどころか爆発寸前まで膨らんだ。  なに。なに、なんなの。有海さんがそんな顔しちゃうほどの墓場なの。あの噂って、やっぱりマジもんなの。
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