プロローグ

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「あ、あの、あの、よろず相談課っていったい」 「謎よ」  鈴木さんがいやに重々しく断言する。 「あそこに異動する人ってほとんどいなくて、だから、なにをしているかもいまひとつ謎で。まぁ、旧館に取り残されている唯一の部だし、あそこの部署、よろ相以外になにもないし、ほかの課とも連携取ってないし、逆に言えば連携を取るような事案もないしで、本当に謎の部署なの」 「謎」 「そう、謎。でもね、三崎ちゃん。きっといい経験になるわよ。たぶん、二年かそのくらいでまた本館に戻ってこられるから」 「あそこって、一回追いやられたら辞めるまで異動はないってもっぱらの噂ですけどね」 「こら、鈴木さん。そんなこと言わないの」  顔面蒼白のあたしが気の毒になったのか、有海さんが鈴木さんを窘めてくれた。そして例の笑顔であたしに言い聞かす。 「よろず相談課っていう名称は、どんな相談でも受け付けるっていう意味だって聞いたことはあるわよ」 「どんな相談でも」  それって、いわゆる理不尽すぎるクレームってやつじゃ。思い浮かんだ言葉にぞわわと悪寒が走る。なにそれ、怖い。有海さんは笑顔のままだ。 「そう。どんな相談でも。たとえば、市民の方から電話を受けても、どこに回せばいいかわからない相談事ってあるでしょう? そういった課の枠に収まりきらない……そのまま零れ落ちていきかねない相談を一身に引き受けているのがよろず相談課なの。これって、すごく市民の方のためになる部署だと思わない?」 「は、はぁ……」  有海さんのお言葉はまったくもって正論なのだけれど、悲しいかな、上滑りしている。だって、墓場だ。夢守市役所の墓場ともっぱらの評判の姥捨て山だ。  ――あたし、そんなに、使えないって思われるようなこと、しでかしたかなぁ。
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