プロローグ

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「あのね、もじゃおくん……本名なんだったかな。も……なんとかくんだったんだけど。森田くん、違うな」 「しずちゃーん、きみ、もじゃおくんの同期じゃなかったっけ。あの子の名前、なんて言うの?」 「最上です。それとそこまで悪いやつじゃないですよ」  隣の島でひとり、真面目に事務案件を処理していた静山さんが苦笑いで振り返る。 「まぁ、ちょっと変なやつではありますけど」  静山さんはあたしの二期上の先輩だ。その静山さんと同期ということは、見たことがあってもおかしくはないはずなんだけど、……まぁ、でも、部署が離れていて仕事でのかかわりがなかったらそんなものか。  若手の飲み会にもあまり顔を出されないというのなら、なおさら。  ――でも、最上さん。最上さん、か。  うーんと三度うなってあたしは考える。あたしの二期上ということは、同じ高卒枠での採用だったら二才違いだろうけど、市役所は大卒採用の人のほうが圧倒的に多い。  おまけに、社会人経験を経て転職してきた人や、何年も落ちてやっと公務員になったという人もいたりするので、同期と言っても年齢層には幅があるのだ。だからもしかすると、そこまで年は近くないのかもしれないのだけれど。  そこまで考えて、あたしは「あ!」と短く叫んだ。みんなの視線があたしに集中する。 「あの、最上って、まさか」 「ん?」 「最上、真晴さんですか。あの、北高の」 「あぁ、そういや、あいつ北高だって言ってたかも。うん、そうだ。たしか、真晴だよ、下の名前。あれ、そういえば三崎ちゃんも北高だっけ。ということは、あいつのこと知ってた?」 「いや……」  知ってはいたけど、旧館のもじゃおさんは知らないというか、なんというか。  興味津々の鈴木さんの視線を交わして、静山さんにへらりと笑いかける。鈴木さんはいい人だけれど、ちょっと口が軽いのだ。
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