プロローグ

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「名前だけは。高校の、二個上の先輩なので」  あたしの脳裏に青春のきらめきが翻って、消えた。もじゃおくん。  あたしの、――記憶違いでなければ、あたしの知っている最上真晴先輩は、あたしたち下級生の王子様的存在だったはずなのだけれど。  もじゃおくん。もう一度、そのあだなを胸中で繰り返して、うーんと心のなかで唸る。  まぁ、人生、なにがどうなるかなんてわかったもんじゃないもんな。  あたしだって、まさかよろ相に飛ばされるなんて、昨日まで、というか、小一時間前まで想像すらしていなかったわけだし。  ――でも、最上先輩がいるのは、ほんのちょっとうれしいかもしれないな。 「あら、三崎ちゃん。ちょっと元気が出た?」 「はい、みなさんのおかげです!」  現金すぎてとても口にはできないが、一筋の光明が見えた気分だ。  それに、墓場だなんていうのも口さがない噂で、実際には有海さんが言ってくださったような素晴らしい課なのかもしれない。市民の方のために日々を尽くしているような。  とにもかくにも、あたしはそう自分に言い聞かせた。噂だけで物事を判断するのはどうかと思うし、自分の目で見なければ実態はわからない。もしかしたら本当に素晴らしいところなのかもしれないし。  ――いつも笑顔で真摯にがんばるんだよ。そうしたら、誰かがきっとわかってくれる。  大好きなおばあちゃんの言葉は、あたしを奮い立たせるおまじないだ。  わかってる。わかってるよ、おばあちゃん。  あたし、この町のためにがんばるからね。  おばあちゃん手作りのお守り袋はあたしの一番の宝物だ。首から提げているそれをぎゅっと握りしめて、あたしは決意を新たにした。
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