プラチナ

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 その後、不二子はパルクールの表舞台から姿を消した。  暁美のせいではない。全日本大会までの僅か数ヶ月、パルクールだけを見つめて一心不乱に飛んでいた暁美の姿に、いつからか不二子は自ら負けを認めていたのである。  その愚かさの報いであるかのように、不二子を持て(はや)していた群衆は全て暁美に移り、不二子が表彰式に出なかったことを執拗に批判した。  不二子は暁美を恨んではいない。むしろ清々しかった。  名誉や称号、観客にライバル。不二子にそんなものは似合わなかったのだ。  暁美がそれらを取っ払ってくれた。  不二子が本当に好きなものは、飛んだあとの解放感と、ひんやりと冷たい貴金属だけだった。  サークルを辞めた不二子は、暁美と会う機会もなくなった。  大学ですれ違っても、目配せするくらい。暁美はいつも、不二子に同じ視線を送る。不二子も決まった視線を返す。  あんたは本当に、それでいいの?  お互い好きなことをやれてるんだから、これでいいじゃない。
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