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金メダルを手にしたときの、あのひんやりと冷たい感覚。
自分が金属アレルギーと知ってからは、金属は“熱くなるもの”として恐れていた。触れたら途端に痒くなって、体の内側から熱くなるから。
金属アレルギーは、汗や体液によって溶け出した金属イオンに対して、体が拒絶反応を起こすことによって発症する。
つまり、イオン化しにくい金属であればアレルギー反応は起こらないのだが、それは純粋な金や銀、プラチナといった、高価な金属に限った話である。
何度も、あの感覚に触れたい。あの感覚をいくつも集めて、自分のものにしたい。
それこそが、不二子が直向きに努力する原動力であった。
周りが不二子を大学の象徴として扱いたがるのも、いい気分だった。名声は、目に映る世界を自分の好きな色に変えてくれる。
「ここで練習してたら、まーた注意されちゃうんじゃない?」
着地後の余韻に浸っていたところ、頭上からお馴染みの声が降りかかってきた。
中学生のギャルが着るようなスエットに片足は運動靴、もう片足はクロックス。階段の中間の広いスペースから不二子を見下ろし、一本の松葉杖に体重を預けながらニヤついている。
マネージャーの暁美だ。
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