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鱗病が知られて数年になる 鱗のように皮膚や骨が剥がれ いずれ影も形もなくなる 人間にだけかかる流行り病で 病の進行を追った 閲覧注意のタグのついた動画が いくつも動画サイトに上がっていた それは透明人間と同じで 徐々に体の彼方此方が空気となり 包帯を巻かなければ人の形とは わからなくなってしまい パーツが全て消えれば この世から影も形もなくなってしまう 痛くはないらしい ただ消えてしまうらしい 医療用セメントで補填することはできたけれど 最終的に人型の石膏が出来上がるだけで それを墓標にする人もいるのだった 彼は動画は見たことがあったけれど 遠い世界の話だと思っていた 彼は世を嫌い人を嫌った 自分がいなくなったところで 誰も悲しまず泣かないと思っていた 人が寄ってくると距離を置いた それでも彼を慕ってくれる人がいた けれど幾人も袖にした 消えることは怖くない そう思っていた そして彼の皮膚がある日一片消えた ひとひらひとひら 日に日に爪ほどの大きさの皮膚が落ち 体に空間ができていく 彼はやっと自覚した 形がなくとも人の記憶に残ることができたということを それを怠ってしまったことを 子供を成そうにも生殖器は消えた 声を出そうにも声帯は消えた 文字を書こうにも指は消えた 誰かに会おうにも足は消えた 己を遺す手段はもうない 彼は誰にも伝わらないまま 頭の中で思うばかり 病院のベッドで さらさらと砂のように彼は消えていった 彼が消えてもこの世から病は消えなかった 彼が消えたところで世界は何も変わらなかった
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