第3章

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指先で氷をカラカラと回しながら、 「ほら、思うところがあるから、そんな風にも怒りたくなるのよ。もっと、面倒くさくない生き方をしたら?」 母が気怠げに頬づえをつく。 「僕は、面倒くさくなど……」 「……わかってないのね」 と、母がグラスを口に運び、ため息を吐く。 「……いい? 恋なんて、もっと気楽にすればいいのよ。あなたみたいにがっちがちに意地張ってたって、つまらないだけよ」 「……意地など張っては……」 否定しようとするのに、顔が気恥ずかしさに赤らんでくる。 「…聖哉。あなたは、忘れちゃったのよ。愛するってことが、どんなことなのか。……オルガスムスを感じてないのにイったふりばかりしていて、本当の絶頂がなんなのかわからなくなってしまう感じかしらね」 「……たとえ方が、よくわからない…」 まるで息が詰まるような空気感から逃れようとして、かけているメガネを指で押し上げる。 「私は、あなたみたいに、言葉をよく知らないから、うまくは言えないけど、つまりは自分に嘘をついてると、本当の自分の気持ちまでわからなくなっちゃうってことよ…」 母親の言葉に、何も返せずに黙り込む。
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