第3章

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次々と投げかけられる真っ直ぐな気持ちに、 「……だが、確かなプロポーズとかをしたわけでもないだろうが」 対応もし切れずに、手持ち無沙汰にワイングラスを持ち上げると、 「……いつかは、おまえも他の女性と結婚もありうるのかもしれないんだから、僕との約束はただの不確かなものに過ぎない……」 ワインをひと息に喉の奥へ流し込んだ。冷たい喉越しにぶるりと身体に震えが走る。 「……そんなのわかってるよ。わかってるが、それでもいいんだって」 その僅かな震えを察した彼が背中をさすって、 「……やっぱり、変わったよな。聖哉…おまえ」 言いながら、僕の顔をじっと窺った。 「……どこがだ。僕は、どこも変わっていない」 目をそらして、テーブルに置いたグラスの中身に視線を移す。 「以前より穏やかになっただろう。メガネの奥の瞳が優しそうにも見える……。なぁ、何かあったのか?」 こちらを覗き込むようにも見られて、 「……何もない」 とだけ、答えた。
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