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3.前世関係者
「若くして死んだ……死の理由?」
――『「所領の引き渡し」、または「切腹」を命じてきおった』
昨夜の夢で言っていた、尚親の言葉を思い出した。結局、あの後尚親は、『切腹』の方を選んだのだろうか。
「まだ死ぬところは夢で見て無かったか? 俺は……あぁ、尚親の妻の名前は『淡雪』って言うんだが、尚親の切腹が決まってすぐに上地家を追い出されてる。淡雪にとっては晴天の霹靂過ぎて、何故こうなったのか、何故自分の子供と一緒に居られなくなったのか、この世に未練が残りまくりみたいだな」
そこまで言って浅井先輩は、やっと握っていた私の手を緩めた。
「正直俺は、淡雪が可哀想だなんて思っちゃいない。ハッキリ言って、自分の悲しみを来世であるこの俺に訴えかけるなんていうのは、筋違いもいいとこだし迷惑だ。だけど何度も同じ夢を見せられているうちに、俺も不思議に思えてきた事がある。何故そもそも、上地家に謀反の疑いがかけられたのか?」
そう言えば、尚親と書状を持って来た家臣も不思議に思っていたような節がある。そして尚親は、『家臣の誰かによる謀略』と考えていた。
(謀略って……尚親の家来の誰かが、主家の今川家に告げ口したってこと?)
でもこれは憶測の域を出ないし、具体的には誰の仕業とまではわかっていなかったようだ。
「まぁとりあえず、何も知らされず故郷に帰されて、子供と離れ離れにさせられた淡雪には、全てを知る権利があると思うんだよな。その淡雪の執念に悩まされている俺は尚更のこと」
そこで一旦切ると、また顔を覗き込むように近づいて浅井先輩は言う。
「そして、尚親とその前世を持つ直緒には、それを突き止めて俺に教える義務がある」
(義務!?)
それはどういう意味だと聞こうとしたら、逆に質問をされた。
「ところで直緒は今彼氏いるの?」
「え!?」
「いないよな? さっきから反応が慣れて無さそうだし」
その慣れてない反応というのは、『異性との』という意味なのだろうか。心外だけれど、反論は出来ない……。
「良かった。これから頻繁に連絡取ることになりそうだし、もしいたら少しは悪いかなと思ったけど、これで遠慮なく連絡させてもらうから」
そう言って浅井先輩は「はい、スマホ」と、私のスマホを差し出すように要求してきた。全てに納得したわけでは無かったが、夢の中の淡雪の涙を思うと同情してしまうし、義務という言葉にも弱いので仕方なくスマホを差し出す。
それに私自身、疑問に思い始めていたのが大きい。何故上地家が謀反の疑いがかけられたのか、を。
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