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「おいおい……驚き過ぎだろ」
「すみません、それって誰です?」
「ん? あぁ、3年の男子だったな。えぇと確か名前は……浅井だ。浅井響介」
(3年の男子……)
それは昼に図書室で出会った男子生徒だろうか。彼のことがすぐに思い浮かんだ。しかしそれが彼だとして、何故彼が『上地尚親』を調べているのか。
(本当に上地尚親は実在してたってこと?)
可能性が高くなったのは確かだ。自分の夢の中に出てくる人物の名前を、他人が知っているわけがない。だが、ショウさんが予め実在する人物の名前を教えたという可能性も捨てきれない。だとしたら、戦国オタク臭のする日本史担当の岡部先生が知らない武将を、ショウさんが知っているというのも、何か腑に落ちない話だ。
そんな事を考えているうちに、最寄り駅傍にある市立図書館へと辿り着いていた。ここに地方の詳しい郷土資料があるのかどうか、少し疑問ではあるがとりあえず調べてみるしかない。
放課後に図書館へ来るのは初めてだったが、割と制服を着た学生もちらほら存在していた。他にも熱心に机へ向かう大学生や、暇そうな初老の男性など。平日のこの時間、市立図書館の利用者はそこそこ多いらしい。
図書室と同じ要領で、まずジャンル分けされた棚を確認する。想像していたよりも郷土資料があったので、とりあえず静岡県、特に遠江の事が詳しく載っていそうな本をいくつか取り出し、テーブル席へと向かった。
テーブル席は長方形の6人席で、既に初老の男性が1人角席に座っていたので、対角線上の角席へと座る。持ってきた資料をパラパラと捲っていたら、『上地谷』という単語を見つけて思わず手を止めた。慎重に読み進め、『上地氏』という単語が目に入ったところで、隣の席に人が座る気配を感じた。
このテーブル席に座っていたのは2人だけ、つまりまだ4つ席が空いていた。まだ角席が2つも空きのあるこの状況で、私の隣に座るというのはどういう事なのか。気になってこっそり隣を覗くと、そこには昼間図書室で出会ったあの男子生徒が、肩肘を付いてこちらをじっと見つめていた。
「2年生の井上直緒って君のこと?」
名前まで知られている…という事は……
「もしかして、浅井先輩ですか?」
「あれ? 俺のこと知ってんの?」
(やっぱり)
上地尚親を調べていたのは、岡部先生から名前を聞いた『浅井響介』――この人だったのだ。
「岡部先生と下駄箱で会って……その時に」
「ふ~ん。なら話が早いや。俺もあの後、岡部に相談しに行ったら井上さんのこと聞いたんだよね」
何故だか知らないが、昼会った時より浅井先輩の眼光が鋭く感じた。気のせいだろうか。
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