2.前世は実在するのか

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「単刀直入に訊くけど、何で『上地尚親』を調べてる?」  急にそんなことを訊かれても、初対面の人に前世や夢の話がどうのと説明出来るわけがない。寧ろこっちが同じことを訊きたかった。 「まぁいいや、話し難いなら俺から話すよ。俺は結構前から上地尚親の夢をよく見るんだ」 (上地尚親の夢を見る!?)  自分と同じ夢を見ているのだろうか……鼓動が急に速まった。 「夢の中の俺は綺麗な赤い着物を着ていて、この尚親って武将をなじってばかりいる。とにかく「子供を返せ」の一点張りだ。毎回この夢を見ると、朝には涙の痕があって酷く疲れてる。もう最悪だ」 (私が昨日見た夢と似てる!?)  どういう事だろうか。他人が同じ夢を見ているだなんて。 「その子供の名前ってもしかして……」 「「小虎丸」」  私達は同時にその名前を言った。互いに目を見張ったが、彼には確信があったようですぐに「やっぱりな」というようなしたり顔になった。  二人は同じ夢を見ているが、ひとつだけ違う点がある。それは“視点”だ。 「井上さんも同じような夢を見たことがあるんだな?」 「はい……昨日見ました」 「俺はこの酷く疲れる夢を何度も見ていたから、いい加減この『上地尚親』が本当に存在するのか気になって探してたんだ。もしかして井上さんも同じ理由?」 「大体……同じです」  その答えに「ふ~ん」と言いながら、先輩は顔を覗き込むように近づいてきたので、私の体は仰け反った。 「俺はこの夢、『前世の記憶』なんじゃないかと思ってる。夢の中での俺はこの尚親って奴の妻――つまり、女だ。ってことは、その逆も有り得るんじゃないかと……」 (何を……言おうとしてる? いや、多分それは……) 「井上さんはもしかして、『上地尚親』自身の夢を見てるんじゃないのか?」  思わず生唾を飲み込んでしまった。その音が彼にとって、私の前世が尚親であるという確証を得るのに十分だったようだ。再び彼の口角が不気味に上がった。 「そんなに怯えるなよ? 俺は嬉しいんだぜ。こんなに俺を苦しめる夢を、他にも見てる奴がいるって言うんだからさ」  そう言って彼は目の前に右手を差し出してきた。握手をしろという事だろうか。私はおずおずと手を伸ばし、彼の手をそっと握った。すると彼はギュッと強く握り返して、逃げ腰の私の体ごと強引に引っ張った。不穏な空気を纏った彼の顔が、20センチも満たない距離に迫る。 「仲良くしようぜ? 前世は夫婦なんだし。改めて俺は浅井響介。元夫婦の(よしみ)で下の名前で呼んでくれていいぜ。その代わり俺もこれから、『直緒』って呼ばせて貰うから」 (いきなり名前呼び捨て!?)  浅井先輩は満面の笑顔だが、瞳の奥は笑っていないのがわかる。 「それで一つ提案があるんだけど。尚親が若くして死んだのはもう夢に見て知ってるんだよな? 俺はその理由が知りたいんだ。一緒に探してくれないか?」
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