3.前世関係者

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「どうしました? 尚親様。今日は随分と甘えてらっしゃる……」  薄紫の着物を着た女性が、頭上から声をかける。どうやら尚親は、この女性の膝に頭を乗せて横になっているらしい。  そこはあの懐かしさを感じる和室とは違う部屋だった。紫色の綺麗な花が飾られていて、鏡台も置いてある。彼女の部屋だろうか。障子の隙間から覗く庭を見ると、そこには部屋に飾ってあるのと同じ花が、いくつも咲き乱れていた。 「東国出兵の件、また家臣の意見が割れておる……。その上、淡雪は身重(みおも)で気が立っているようだし……」 (身重? ……それって妊娠中ってこと?) 「あらまぁ」と微笑みながら、その女性は尚親の肩の辺りを撫でた。 「桔梗(ききょう)……すまんな。そなたの父からは早く子を作れと言われておるだろうが……」 「いいのです、尚親様。私はこうしてお(そば)に居られるだけでも幸せなのですから」 「桔梗……」  桔梗と呼ばれる女性の手の甲に、尚親はそっと自分の手を重ねた。 * * * * *  目覚まし時計のアラームよりも、聞き慣れない着信音で私は目を覚ました。 「何なの? 今の夢……それにこんな朝っぱらから誰?」  音はメール着信を知らせるものだった。 『オハヨウ、直緒。前世の夢は見たか?』  浅井先輩からのメールだ。前世の夢であることは間違い無さそうだが…これは何と返せばいいんだろうか。ありのままを報告するべきかどうか迷った。だってあれは……浮気では無かろうか。 * * *  昼休み。部室で一緒に昼食を食べようと誘ってくれた結衣は、放送室に着くなり「更に元気失ってない?」と心配してくれた。  結局浅井先輩からのメールには、「見ました」とだけ返事をしたもの、内容には触れないでいた。そして校内でいつ先輩に出くわさないかと、私は今、ビクビクしている。 「まだ前世で悩んでるの? 調べたんじゃなかったっけ? 実在しなかった?」 「ううん、実在はするみたい」  図書館の史料には、上地谷という場所に上地氏という国人領主が居たことだけはわかった。ただ、家系図のような詳しいものは目にしておらず、尚親がその上地氏に存在したかどうかまでの証拠は確認していない。しかし、自分だけじゃなく他人が同じ記憶を夢で見ているとわかれば、存在を否定することも出来なかった。 「じゃあ何でそんな暗いの? その武将……サイテーな奴だった?」 「サイテーというか……奥さんの他にも女の人がいるみたいで……」  そう口ごもると、結衣はプッと噴き出した。 「そりゃそうでしょ!? 戦国武将だもん。奥さんの一人や二人いるでしょ!? あんた、豊臣秀吉の側室何人いると思ってんの?」
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