3.前世関係者

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「側室?」 「そう、側室。世継ぎ産まないと家潰れるでしょ? だから居るんだよ、沢山」  そうか。あの桔梗という女性は尚親の“側室”だったのか。そう言われてみれば、『そなたの父からは早く子を作れと言われておるだろうが……』の意味も納得できる。  結衣から側室の話を聞いて、私の気分は大分楽になった。しかし、浅井先輩は側室の存在を夢で見て既に知っているのだろうか。前世なのだから、私がこんなにビクビクするのもおかしな話なのに、側室の夢について先輩に話すのが、何故か躊躇(ためら)われた。もしかして前世でも、尚親は淡雪に対してこんなに後ろめたかったのだろうか……。  放課後。昨日は部活を休んでしまったので、今日こそはと下駄箱へ向かうと、そこには浅井先輩が待ち伏せをしていた。 「よぅ、直緒ちゃ~ん。ツレナイ朝のメールぶり~」  私を見つけると先輩は馴れ馴れしく肩を組んできたが、額には青筋が立っている。 「せ……先輩?」 「お前何処に行くつもりぃ? 今日も俺と図書館デートのはずだけどぉ?」 (と……図書館デート!?)  咄嗟に辺りをキョロキョロと見回した。今の会話を誰かに聞かれたら、完全に誤解されてしまう。それに肩を組むのをヤメて欲しい。顔が近い……。 「きょ、今日は昨日部活休んでしまったから出ないと不味いんです。大会も控えてるので!」 「部活って何部?」 「テ……テニス部です」 「スコートだっけ? ……見学できる?」 (パンチラ見たいだけですよね!?)  暫く先輩と「駄目です!」「いいじゃん!」の応酬をしていたら、突然後ろから声をかけられた。 「井上先輩? そこで何やってるんですか?」  そこには男子テニス部の後輩である三沢(みさわ)徹哉(てつや)、三沢君が居た。テニス部員には男女関わらず、この状況を見られたく無かったのだが……。 「井上先輩、今日も部活休みですか?」 「う、ううん。今日は出るつもりだよ」 「こいつもテニス部員?」 「そ、そう。男子テニス部の後輩で三沢君……」  「ふ~ん」と言いながら、先輩は三沢君を頭の天辺から爪先まで品定めする。一方、三沢君はそんな先輩をギロリと睨みつけたままだ。 (何? この状況……) 「じゃあ先輩、早く部活行きましょう」  三沢君は突然私の腕を掴んで、外に向かって歩き出そうとした。 「おい。慣れ慣れしく直緒に触るんじゃねーよ」  後ろから先輩の怒りに満ちた声が聞こえてくる。 (いや、慣れ慣れしいのは(むし)ろ先輩の方!!!) 「先輩、この人と付き合ってるんですか?」  小さな声で三沢君が訊いてきて、私はブンブンと頭を左右に振った。 「本当ツレナイなぁ、直緒は。昨日『俺達は前世で夫婦だった』って確認したばっかりなのに」  そう言って先輩は、三沢君の前で再び私の肩に腕を回してきた。 (ちょ……何言っちゃってんの!? この人――!!!) 「何だ、そんな事ですか。それなら俺だって前世は井上先輩と夫婦ですよ」「「え……!?」」  呆気にとられた先輩の隙を突き、同じく呆気にとられている私の腕を引いた三沢君は、テニスコートへ向かって足早に歩き出すのだった。
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