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正直、部活中はダブルフォルトにアウトばかりで練習にはならなかった。部活仲間が心配してくれたけど、「大丈夫」と言いながらも私は顔を引きつらせるしかない。目線はどうしても、男子テニス部の三沢君へと向かってしまう。三沢君も練習中、ふとした拍子にこっちを見るので、その度に何度も目線を反らさなくてはならなかった。
(このままじゃ、あの噂に真実味が増しちゃうじゃん!)
とにかく先程の『俺だって前世は井上先輩と夫婦』の真相を確かめなくてはと、三沢君には部活終了後こっそり一人で残って貰うことにした。
「あとの片づけやっとくから」という言葉でさりげなく最後に残った私は、人気の無くなった頃を見計らい、男子テニス部の部室へと向かう。
「井上先輩、お疲れでーす」
部室前で待っていた三沢君は、あまりにもいつも通りで少し腹が立った。
「今日は本当疲れた……」
「あぁ、あの先輩のせいですか?」
浅井先輩のことを言っているのだろうが、
「半分は三沢君のせいだからね?」
「え? 俺のせいですか!?」
「そうだよ! あんなこと言うから……」
「あんなことって、『前世は先輩と夫婦』ってやつですか?」
「そうだよ……」
三沢君は少し自嘲気味に「あながち全くの嘘でも無いですよ?」と言った。「どういうこと?」と訊ねると、彼は校門の方へゆっくり歩き出す。
「俺、昔からよく同じような夢を見るんです。お殿様が出てくる夢。凄く優しげなお殿様」
(お殿様?)
「夢の中で俺は女なんですけど、そのお殿様が凄く好きでずっと見守っているんです。形だけは夫婦だけど、愛し合うことは出来なかった。……そんな夢を小さな頃から何度か見ていて、この高校で井上先輩を見つけた時、電流が走るような衝撃を受けたんです」
そう言って暫く黙った三沢君は、振り返って私の瞳をじっと見つめる。
「井上先輩の雰囲気はそのお殿様にそっくりなんです。俺は先輩がそのお殿様の生まれ変わりじゃないかって勝手に思ってました。だからさっき、ついあんなこと言ってしまったんです」
(それで三沢君は、私によく挨拶してたのか……)
と、今までの三沢君の行動につい納得しかけたが、
(いや待って。感心するとこそこでいいのかな!?)
「三沢君、ところでそのお殿様なんだけど、名前はわかる? もしくは、三沢君の夢の中の名前」
「名前ッスか? う~ん……確か『ひさちか様』って言ってたかな。それで、俺の方は『桔梗の方』とか『桔梗』って呼ばれてました」
(嫌ーーー!!!!!)
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