3.前世関係者

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「え!? いいんですか!?」  そう言って振り返った男性客はスーツ姿で、若い会社員のようだ。彼は私を見た瞬間、瞳を大きく見開く。 (この手の反応は……最近よく見るやつだ。嫌な予感がする!)  そうは思ったものの、ここは敢えて冷静に、 「いいですよ。困った時はお互い様ですから」 と、笑顔でさらっと受け流そうとした。…が、私の顔は見事にひきつってしまったと思う。  何故なら次に見た彼の頬には、大粒の涙がこぼれていたからだ。 (泣くほど嬉しいこと!?)  彼の涙にドン引きしていると、レジの店員が「お客さん、千円でよろしいですか?」と声をかけた。その声で我に返ったのか、男性客は素早く袖口で涙を拭うと、レジを済ましてさっさと店の外へ出て行く。 (何だったんだろ?)  疑問は残るものの、深く関わらないに越したことはないと結論付けて、私はアイスの支払いを済ませ、さっさとコンビニを後にした。家までの暗い夜道が不安を煽り、足早に歩き始めると脇から急に何者かが現れ、行く手を阻む。 「あ、あのっ!!!」 「わっ!!! び、びっくりしたぁ~」  それは先程のコンビニ号泣男だった。コンビニの外で私を待ち伏せていたようだ。心臓に悪い。 「先程はお金をどうも。今は持ち合わせが無いので、とりあえずこのお釣りの150円を……」  そう言って彼は、お金を持った手を目の前に差し出した。 「いえ、気にしないでください。そのお釣りもいらないので」 と、言おうとしたが、途中でまたこの男が泣きだしたので、私は仕方なくお釣りを受け取ることにした。 「あ、ゴメン。今のは違うんだ……。別にお釣りを受け取って欲しくて泣いたんじゃなくて……ちょっとこれには理由があって……引かないでくれると嬉しいんだけど、無理かな……」  そう言って彼はガックリと肩を落とした。酷く落ち込んでいるようだ。 (何だか憎めない人だな……)  そう思ったら何だかおかしくて、少し笑ってしまった。 「良かった。引いて無い? あ、実は今仕事の休憩中で、すぐ会社に戻らなきゃならないんだけど……500円返したいから君の連絡先教えてくれないかな?」 (新手のナンパ? ……じゃないよね?)  自分でも身の程はわかってるつもりだ。見知らぬ男性に声をかけられる程、とびきり可愛いとは思っていない。しかし、たかが350円を払って貰ったくらいで、彼がこんなに食い下がるのも何か不自然が気がした。 「いえ、それは別に返さなくても……」  すると彼は往来の道端にも関わらず、いきなり目の前で土下座をし始めた。 「お願いします! この通り!! 500円返させてください」 「ちょ……ちょっと!? やめてください。人が見ますから……」  ここは車通りの少ない住宅街とは言えど、帰宅中の歩行者は少なくない。 (大人の男の人ってそんなに面子(めんつ)を気にするモノ!?)  面倒なことになったなと思いながらも、勢いに負けて仕方なく、彼とは連絡先を交換した。
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