4.浸食される現世

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4.浸食される現世

 目を擦りながらスマホを確認すると、目覚ましのアラームをセットしている6時半より10分程早かった。体を起こして胸に手を押し当てる。心臓がドクドクといつもより速く動いている。 (今のは、尚親の最期に見た景色)  尚親が最期に目にしたのは、最も信頼し一番近くで仕えてくれた家臣、通孝が涙を流しながら尚親に刀を振り下ろす瞬間だった。  ベッド棚に置いていたスマホを手に取り、タップして昨夜受信したメールを見返す。 『夢の中で僕はその人に仕える家来なんだけど……何故かその人の首を()ねる夢を何度も見るんだ……』  本人に確認をとらなくても、今ならハッキリとわかる。通孝の流した涙と、昨日見た倉下さんの涙がぴったりと重なった。 (倉下さんの前世は、尚親の家来の『通孝』だ)  身体中が汗で湿っていて気持ちが悪い。夢の中とは言え、前世の死の記憶で全身に冷や汗を掻いたのだろう。  こんな夢を、彼は何度も見ているのだろうか。前世の自分が死ぬ夢も恐ろしいが、目の前で知ってる人を殺す夢を何度も見ている倉下さんが心配になった。  それに前世の尚親は戦国武将だ。この先、戦の夢を見る事もあるのだろうか。こうやってどんどん前世の夢を見せられるのかと思うと、急に胃液が逆流するのを感じた。  やっとのことで制服に着替え、朝食の並ぶ食卓へ着く。座るだけは座ったが、何も食べる気になれなくて牛乳だけを飲んでいたら、さすがに心配したのか母親が、 「直緒。今日は休みなさい? 顔色が真っ青……。それ飲んだら体温計持って行って寝なさい。学校には連絡しといてあげるから」 と、言った。  正直、学校で浅井先輩や三沢君に会うのは憂鬱だったので、母の助言には素直に従った。  明日からは運良く週末で土日だ。今日を含め、三日は彼らに会わなくて済む。だからと言ってこのままの状態で土日を過ごしたとしても、問題を先延ばししているだけな気がした。もしかしたらこの週末で更に前世の夢を見て、状態を悪化させる事だってあり得る。そんなことを考えながら体温を計っていたら、35.6℃だった。 (低過ぎないコレ!?)  ベッドに寝転びながらも打開策を探す。 『もしこの先困った事になったら、いつでもいいから連絡して。力になる』  占い師のショウさんが言った言葉を思い出した。今がまさに、彼の言う『困った事になった』時なのかもしれない。机の上に置いたショウさんの名刺を拾って、そこに書いてあるアドレスにメールを送る。 『先日占って貰った井上直緒です』 『早速ですが、ショウさんの言った通りのことが起きました。相談したいのですが、電話してもいいですか?』
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