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けたたましい目覚ましの音が部屋中に響く。瞼をこじ開けると、ぼんやり日の光で明るくなった自室の天井が見えてきた。
(今何か、夢を見ていたような……)
思い出そうとして記憶を探るが、目覚ましの音が見事にかき消してくれている。諦めて目の周りを擦ると、人差し指の節目にジャリッという違和感を覚えた。
(え……私、泣いてた?)
涙の痕が渇いて、目尻が異物で音をたてたようだ。しかしどんな夢を見ていたのか……全く思い出せない。
「まぁいいか。早く学校行く支度しなきゃ」
起き上がった私は、ベッド脇でいつまでも鳴き続けていた目覚まし時計をおもむろに止めた。
* * *
見慣れた校舎の白い壁が眼前にそびえ立つ。始まるまではあんなにワクワクしていた高校生活も、二年目ともなればウンザリするような日常に変わっていた。
校門を通過しようとした辺りで、聞き慣れた声に呼び止められた。振り返ると、親友の結衣が手を振りながら走って来るのが見える。
「結衣、おはよう。そんなに走らなくてもいいのに……」
彼女とは去年一年間、クラスメイトだった。明るく社交的な性格で、すぐに打ち解け仲良くなったが、二年に進級するのと同時に別々のクラスへ別れてしまった。別々のクラスになってしまうとどうしても、せっかく仲良くなった友達とは疎遠になってしまう事が多いが、彼女はこうやって私の姿を見つけるとすぐに、以前と変わらず接してくれる。そこが私にとってやはり、唯一無二の親友と呼べる存在だった。
「いやね、早く伝えたいことがあってサ!」
「何?」と訊くと、彼女は何故か耳元へ近づいて声を潜める。
「最近巷で話題になってるイケメン占い師知ってる? 『前世占い』の」
「あぁ、神出鬼没だから口コミでしか予約取れないっていう?」
そうそう!! とばかりに結衣は首を縦に振った。今にも取れそうな勢いだ。
「うちの姉ちゃんがとうとう占って貰ったんだよ! だからね、予約出来たの!!」
「え!? マジ!?」という驚嘆は、結衣の片手によって塞がれた。彼女の目が「それ以上騒いではならぬ」と凄んでいる。
「バレると殺到するから。今日部活終わった後暇でしょ?部室まで迎えに行くから一緒に行こ!」
暇だと断定されたのが少し引っかかるが、私は右手の親指をぐっと立てて見せた。
占いに興味が無いと言えば嘘になる。誰だって自分の未来が気になるはずだし、その上自分の前世まで? しかもその占い師がイケメンだと言うのだから、この誘いを断る方が難しいだろう。
気づけば私の足取りは軽やかに、校舎の下駄箱へと吸い込まれて行った。
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