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「ひょんなことで『上地尚親』という武将の名前を知ったんですが、先生はご存じですか?」
「上地尚親ぁ? う~ん……パッと思いつかないなぁ。何処の武将だ? 本当にいるのか?」
(それを教えて欲しくて先生に質問してるんだけどな!)
そう思いながらも、昨日の夢の中に『何処の武将』なのかのヒントが無いかどうか、考えを巡らせた。あの場所が何処かわかれば、探しようがあるのだろうか。
――『今川家からの書状です。大変な事になりました』
「あっ!!」
「何だ!? いきなり……」
「先生、『今川』ってどっかで聞いた気がするんですけど、何でしたっけ?」
それを聞いた先生は、「お前なぁ……」と呟いて顎下に生えた無精髭を摩る。
「今川と言えば、織田信長と戦った今川義元。『桶狭間の戦い』だろう? これはさすがに中学でも習うぞ? お前本当に歴女かぁ?」
(歴女じゃないもん)
とは思ったけれど、『織田信長』や『桶狭間』という言葉はさすがに聞いた事がある。……詳しくは覚えていないけれど。
「今川家に『所領を奪われる』とか、『切腹しろ』とか言われる立場の人……だったと思います」
「ってことは、今川領、或いはその近辺の武将だな。そっちの郷土資料漁れば何かわかるんじゃないか? うちの図書室にあったかな……」
そこまでわかれば、自分でも探し出せるかもしれない。
「ありがとうございます! 岡部先生。それで、『そっち』って何処でしたっけ?」
「お前なぁ!?」
今川氏。特に栄えた今川義元の時代は、『駿河・遠江・三河』の三ヶ国を支配していた、と岡部先生は説明した。
駿河・遠江――これは今の静岡県の伊豆を除く地域。三河は愛知県東部。昼休みの残り時間いっぱいまで使って、今川氏が支配していたこの三ヶ国に地域を絞って、郷土資料を探すことにする。
高校の図書室に入るのはこれで二度目だ。初めて入ったのは一年の時。テスト前だったので、図書室で勉強しようと思い訪れたが、思いの他人が多くてその時はすぐに退室してしまった。図書室でまともに本を探すのは、これが初めてだ。
本を読む習慣の無い私にとって、本を探すという作業は一苦労だった。棚がジャンル分けされているという事に気づくのに、5分以上も費やしてしまった。
やっと『歴史・郷土』という棚を見つけて覗いてみると、そこには背の高い男子生徒が1人、分厚い本を立ち読みしていた。昼休みの図書室はテスト前の放課後ほど人気があるわけではない。時間いっぱいまで本を読もうと思っている人は、ちゃんとテーブル席で読んでいるのだが。
(この人も何かを探している?)
立ち読みに違和感を感じながらも、棚の端から目的の本を探し始めた。探し進めていくうちに、段々と立ち読みする彼の元へと迫る。私の存在に気づいて早くその場を立ち去ってくれないかなと願いながらも、集中して本を探した。
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