1.前世占い

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1.前世占い

 眼前には木造の門が行く手を阻んでいた。それはそうだろう、人目を(はばか)ってこんな夜更けに訪れたのだから。  この時間、この寺の住人は既に皆、寝静まっていたかもしれない。しかし事前に連絡を入れていたことで、私が扉を叩くと門扉はすんなり開いた。  中からは、この世で一番逢いたく、そして逢いたくなかった人物が私を出迎えた。 「貴女には、生涯合わす顔が無いと思っておりましたが……恥を忍んで最後のお願いに参りました」  そう言って眼前の尼僧に深々と頭を下げる。彼女が今どんな表情なのか、窺うことは出来ないままに。 「我が子小虎丸(ことらまる)の事、ひいては上地家(かみぢけ)の事、貴女にお頼み申し上げたい」  祈るような気持ちでそこまでを言い切った。返事を聞くまでは、(おもて)を上げることも出来ないままに。  そんな心情を知ってか知らずか、彼女から「承知しました」という静かな声音が聞こえた。その返事に安堵し、ゆっくり上体を戻そうとすると、何かが目の前にポタッと落ちる。 「(ずる)い人」  彼女はそう言って、泣きながら微笑んでいた――
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