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さらに5分ほど経って、ようやく彼はドリッパーをサーバーから外し、淹れたてのコーヒーをマグ二つに移した。私はようやく頭をテーブルから持ち上げ、彼は私の頭のあったところにマグを置いた。私は両手でマグを包み込むように持ち、顔を近づける。
「ふぅ」
黒糖色の水面に息をかける。香りが湯気とともに私の顔に当たり、まつ毛に捉えられる。私は猫舌なので、マグのふちに唇を当て、慎重にマグを傾ける。よし、いけそうだな。マグをさらに傾け、中身をのどに流していく。寝起きのからだにあたたかいコーヒーが沁みてくる。
「うすい」
彼のコーヒーへの感想である。慎重に丁寧にお湯を注ぎ過ぎるからいつもうすくなるのだ。
「・・・・・・」
彼は何も言い返さない。静かにコーヒーを飲みながらスマホをいじっている。
私はもう一口飲んだ。彼のコーヒーはうすいけど、嫌いじゃない。昨日の疲れが残っているようなときは、これくらいのうすさがちょうど良い。浅いような深いような酸味と甘い香りが新鮮な果物を思い出させる。気まぐれな味と香りが私の中に満ちていく。
うん、おいしい。
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