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「さっきの喫茶店、行ってみるか」  彼は突然いいだした。彼は飲み終わった二人分のマグをシンクで洗っていて、私はあいかわらずテーブルにべたりと根を張って、朝食がてら食パンを口に詰め込んでいた。彼は私に背中を向けたままだ。私は少し驚いた。私の話、聞いていたのか。てっきり聞き流しているのかと思った。普段外食はしない彼にしては珍しい提案だ。彼なりに私の感想を気にしているのだろうか。よくわからない。私はもそもそと口を動かしながらうーとか、あーとか言葉にならない音を出す。  コーヒーのおかげでだいぶ目が覚めてきたと思ったのだけれど、体が温まってまた眠たくなってきた。正直まだのんびりしたい。でも、このままテーブルに根付いてしまうと日が暮れるまで動けそうにない。 「それか昨日の続きでも良いが、」 「よし、でかけよう」  すぐに出よう。このまま変な空気に流されるとまずい。残ったパンを口にほおばり、コーヒーで胃袋までごくりと押し流した。支度しないと、なんて言いながら席を立つ。部屋着をその辺にポイと投げ、ハンガーラックにかけられた皺の少ないキレイ目の服を選ぶ。そうだまだ顔も洗っていなかった。口の端を歪めて苦笑いする彼を横目に私は洗面所へ向かった。  濡らした手に歯磨き粉をつけたあたりで私は冷静になった。鏡に映る自分の顔をみる。寝ぐせはまず直さないといけない。目ヤニもついているから洗顔もして、晴れているから日焼け対策もして。そうだまだ歯も磨いていなかったなと思い、手についたペーストを歯ブラシに擦り付けた。それでもまだかなり余っていたので彼の歯ブラシに残りを付けておいた。真っ白になった彼の歯ブラシを眺めながらさきほどの彼の苦笑いを反芻した。 「よし、決めた」
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