リリ・ラン

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リリ・ラン

 朝の風は暖かく、僕の髭を撫でる。そよそよと動く髭の振動で、僕はいつも目が覚める。  燃える恒星は遠く、ロロの種みたいに小さいけれど、光は仄かに僕らを照らす。深緑の草たちが着飾る朝露の宝石を一粒だけもらい、喉を潤す。中に詰まった光がお腹を温めてくれる。  今日も、僕は生きている。  空に、風に、光に、僕は感謝をする。 「また行くの?」  洗濯物を干しながら呆れ顔を向けてきた母さんを笑ってやり過ごして、僕は家を飛び出した。身長よりも高い草を掻き分けながら進み、両手を広げてバランスを取りながら丸太橋を慎重に渡り、まあるい赤苔の頭をぽんぽんと踏みながら飛び跳ねた。途中でシファの葉を三枚千切る。怪我をした時に傷口に巻いておくと治りが早いのだ。  赤苔の大群の切れ目には焦げた跡。最初は熱いのかと思って怖くてその上を歩けなかった。勇敢なリリンが叫びながら一歩を踏み出して、熱くないとわかった。それからでしか僕は一歩を踏み出すことができなかった。意気地ないと自分でも思う。  焦げ跡の上には、大きな大きな銀色の丸くてつるつるした物体がある。見上げているとひっくり返りそうになるくらい大きい。  「ウチュウセン」と言うのだと、彼は言った。  彼には必要なものらしく、目覚めて一番に発した言葉が「ウチュウセンはどこ」だった。自分の怪我より銀色の「ウチュウセン」を気にするなんて変な奴だと思う。  こんなもの、なくたって生きていけるのに。
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