ジ・ギエル

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 私は、地球で言うところの機械という存在だ。  ジ・ギエルに地球の生命と呼ばれる存在はない。だが地球を模して、科学を発展させた文明を持つ。  ここで意思を持ち生活している機械は地球の人間を模した外見をしており、サザナミは初めそれを驚いていた。  空港に降り立った時、彼の目は通常より一二四%見開かれていた。動作を九秒停止していた。地球かと錯覚を起こしたようだ。辺りを見回し、「まさか」と呟いた声がイヤホンに入ってくる。 「この文明を造ったのは地球の人間達だ」と説明すると、納得がいったようだった。その人達に会いたいと頼まれたが断った。物理的に無理だからだ。  ジ・ギエルに地球人が来たのは八十五年も前で、一人を除いで全員死んだ。  残った一人は脳だけの存在になり、我々の研究を補佐するコンピューターの中枢として働いている。  その脳を見ることはできると言うと、サザナミはわかりやすく肩を落として目を伏せ首を横に振った。その反応から生身の身体を持った地球人に会いたかったのだと理解する。  私は感情の研究をしている。ジ・ギエルで今やそんな無駄な研究をしているのはいまや私一人だ。  地球人達が生きていた頃は無駄と思える研究も沢山あったが、彼らが死んで文明がさらに発展してからは、無駄は徹底的に排除された。  よりよく生きるために必要がないものを考えることすら無駄なのだ。  でもその無駄に、私は興味があった。
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