若返りの星

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 相変わらず時間が巻き戻っている星で、僕自身確かに時間が巻き戻っていたらしい。肌に艶というリサの言葉も、今はよくわかった。 「光の速度と屈折の角度と回数から考えて、私達の一分という単位の間におよそ八千七百五十八時間と四十三秒ぐらいこの星は時間を巻き戻しているみたいね」  いつの間に宇宙船から持ってきたのか、リサは腕に簡易的な計測器を着けていた。計測器や時計や宇宙船に変化はないから、有機体に限って若返るのだろう。  僕達は一体どれくらいの時間ここに立っていたのか。僕のその考えを読んだのか「五十分ぐらいここにいるわね。五十年若返ったことよ。素晴らしいわね。ここにいれば寿命を延ばすことができるわ。私達の研究の完成形ね」とリサが言った。 「研究なんて、もう、意味ないよ」 「あら、でもあなたは死ねないでしょ。あなたの恋人を見つけるために」  リサの軽口に珍しくむっとして、僕は彼女を睨んでしまった。確かに脳まで若返っているようだ。最近はむっとする元気もなかったのに。 「僕に恋人探しを止めろと言う割には、そういうことは平気で言うんだね」 「やめろなんて言ったことないわ。心外ね。私が言ってるのは、もっとあなたは自分のことを考えて生きるべきよということ。この広い宇宙に一体どれだけの銀河と星があると思っているのよ。あなたの短い一生ではその半分も回ることができないのよ。 もしどこかで生きていたとしても、会える可能性は無限のゼロに近いわ。そんなこともわからないぐらい馬鹿じゃないくせに。老い先短いんだから、もっと楽しいことを見つけなさいよ。あなたって恋人のことを考えている時、眉間とおでこに皺を三本ずつ作ってるわよ。気付いていた? そういう時のあなたって本当に不細工。見るに堪えないからそうやって進言してあげてるんじゃない。少しは感謝してくれてもいいと思うわ。 まあ自分が宇宙の中心の漣様は人に感謝の気持ちを抱くなんてことはないんでしょうけど」  リサの舌も若返っているのか、さっきまでよりよく回っているようだった。    全く、若返ってもいいことはない。
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