アブルニー

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 自分の現状を再確認し、久しぶりに途方に暮れる。  隣にはエメラルドの沼地。  周りはサファイアみたいな壁に囲まれている。  天井からは涙の雫のようなダイアモンドの突起が幾つも垂れ下がっていた。    日本の鍾乳洞みたいだ。  見上げれば自分が落ちてきた軌跡を辿ることができた。地上までどうやら百メートルぐらいあり、自力で脱出は困難のようだ。  例え怪我を負っていなかったとしても、このサファイアの壁を登ることはできなかっただろう。元々私には運動能力が人の半分くらいしかない。得意な運動は歩くことぐらいだ。  咄嗟に掴んで持ってきた研究データの入ったタブレット以外、食べ物も水も、生活に必要な備品も全て宇宙船の中。八方塞がりとはこのことを言うのだろう。死んでいく結末しか見えない。  宝石みたいな場所にいるのが、少しだけ嬉しかった。百年生きていても、女性としての感覚は消えないのだとわかり、少し可笑しくなる。
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