アブルニー

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「ああ、足が痛い。もうこんな足ならいらないわ。どこかにライオンとかタイガーとか、ハイエナとか、いないのかしら。いたら食べてくれていいのに。 あ、ハイエナは死肉しか食べないんだったかしら。じゃあハイエナしかいなかったら死ぬしかないのかしら。もう、それはそれで面倒くさいわね。死ぬふりでもしてたら食べてくれたらいいのだけれど。 心臓が動いてたら生きてるって気付くかしら。そもそもハイエナはどうやって生きているか死んでいるか判断しているのかしら。生物ももう少し勉強していたら良かったわね」  「君は一体一人で何を口走ってるの。頭でも打ったの?」  驚いて声がした方を振り返り、そのせいで足をさらに捻じってしまった。激痛と激震が走る。まさかと思う。こんなに驚いたのは納豆を食べる日本人に初めて出会って以来だ。 「漣、あなたまで何でこんなところにいるのよ」 「ひどい言いぐさだね。助けにきてあげたんだよ。少しは感謝したらどう? それとも宇宙の中心にいるリサ様は感謝の気持ちを知らないのかな」  いつか聞いたことのある台詞に、漣の執着心の強さと粘着性を感じる。  この男は七十年も一人の女性を追い求め続ける変態だ。全くその諦めの悪さには舌を巻く。見ていて飽きないし、することもないのでついて回っているが、私には到底真似できない。  会えるかどうかもわからない恋人を求めるより、新しい恋人をつくる方が遥かに合理的だ。頭はいい癖に、そういう計算機能は彼の中から消滅しているのだろう。
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