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「漣、あなたどこから来たの? 私が落ちてきた穴から来たのならさすがに気付くと思うのだけれど。全然音も気配もしなかったわ。
もしかして漣ったら、変態を通り越して仙人か魔法使いにでもなったの? 瞬間移動を会得でもしたのかしら? それともあなたはすでに幽霊とか? 足はちゃんとある?
やだ、私まで幽霊っていうことはないわよね。あなたと一緒に死んだなんて人生最悪っていうやつよ。汚点よ汚点」
「死んでも君の舌がこんなに回るんだったら、せめて生きていたいなとは思うね」
「あら、あなたって本当低いトーンで辛辣なことを言うのね。レディに対してひどいと思わない? 普通は女性には優しくするものなのよ。そういう教育を受けてこなかったのかしら。きっと友達がいなかったのね。誰もあなたに近寄れないからあなたの世界は閉じたまま開かなかったのだわ」
「リサ、うるさいよ」
私はひとまず口を噤んだ。漣が言葉少なに、特に「うるさいよ」の一言で私を睨みつける時は本気で腹を立てている時なのだと、さすがに七十年一緒にいるとわかるようになった。
漣には怒りの段階があり、今は最終に近い段階まで怒りが到達している。おそらくこれ以上怒らせると本当にここに置き去りにされかねない。人が良さそ
うな顔をして、漣の根は冷淡だ。
彼が熱くなるのは、恋人のことを考えている時だけ。
それ以外は大抵芯から冷めている。
だから彼を熱くさせようと時々命を懸けていたずらするのだけれど、逆効果になることが多い。彼は殻に閉じこもり、ますます冷やかに、言葉少なになる。私が見たいのはそういう漣ではないのだけれど。
思い通りにいかないというのはストレスが溜まるものだ。
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