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「ついておいでよ。こっち」
私が黙ったのを確認してから、漣は歩き始めた。
右斜め四十五度にあった通路を進んでいく。きっと地上と繋がる道なのだろう。漣は宇宙船をどこかに停めて、この道を来たのだ。
私が見落とした道を彼が見つけたことを少し悔しく思いながらも、サファイアの輝きが心を宥めてくれた。
サファイアの通路にはいくつも分岐点があり、方向音痴の私は最早どこからどう来たのかわからない。一人で計測器もなくこんなに同じ景色の中歩いていたら一生をかけて彷徨うことになっていただろう。
「もしかして、リサ、足が痛いの? いつもより大人しい」
漣が珍しく心配そうに私の顔を覗き込んでいる。漣の漆黒の瞳がサファイアを反射して青く染まっている。
「あら、漣こそ私のこと心配するなんて、どこかおかしいんじゃないの? 頭でも打った? 拾ったものでも食べたのかしら?
もしかして、やっぱり今目の前にいる漣は幽霊だったりして。本物の漣はきっと私を置いてどこかへ行ったのね。
当たり前よ。私を助ける意味がないもの。そんな時間なんてないはずだわ。時間が有限で光みたいに早く消滅してしまうことは漣がよく知っているものね」
「そう。時間は有限なんだ。だから君の話をゆっくり聞いている暇はないし、足を止めている余裕もない。例え足を挫いていたとしてもね」
漣は冷淡だ。
私が足を挫いているのを知っていて、肩を貸すでもなく、歩みを緩めるでもない。
もちろん私はそんなことを期待していない。むしろそんなことをされたら拒絶していただろう。
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