アブルニー

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 三十分ぐらい歩き続けて、ようやくサファイアの迷路から脱出した。  そこは、ガーネットの森だった。  バオバブみたいな形の植物なのか、そういう構造の地形なのか、足元は薄い赤色をして、見上げて遠く天に広がる手のひらみたいな枝に向かって深い紅色を濃くし、枝先はほとんど漆黒だった。  まるで漣の瞳みたいに。  紅い光に照らされて、私達は全身を赤く染めていた。  紅い漣は、まるで血に染まった黒い狼みたいに鋭く孤独に見えた。 「この景色を美しいと思う時間ぐらいは、有限であっても、持っていたいよね」  紅く光る黒い狼を見ながら、私はひどく残酷な気持ちになった。  大体が、私は感情に乏しいのだ。  人を愛するとか、感謝の気持ちとか、憐れみとか、そういった感情がどうやったら生まれるのかさっぱりわからない。  そういった感情は乏しいくせに、時々とても、冷酷になる。  目の前にいるこの人を困らせて、傷つけて、心をズタズタに引き裂いてやりたいと思ってしまうのだ。  そうすると脳と舌が高速回転を始める。
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