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そこまでほとんど一気に話すと、息が切れた。
紅い光の中ではあはあ呼吸していると、血の霧を吐いているんじゃないかという気になる。
漣は、私を冷やかな目で見ていた。
それはとても、冷たい、冬のアラスカの湖の底みたいな視線だった。
彼は怒っているのだろうか。それとも、悲しんでいるのだろうか。
感情に乏しい私にはわからない。私の話のどこにそこまで引っ掛かったのかさえちゃんとわからない。私は思っていることを言っているだけで、そのせいで相手の感情を乱しているなんて、最初は全然わからなかった。
今は相手の反応を見て、乱したんだなということまで理解できるようになったけれど、なぜ乱しているのか、それは今でもさっぱりわからない。
私は人を好きになったことがない。好きになるという意味がわからない。
漣を七十年見ていても、やはりわからないままだった。
「君にはわからないよ」
漣は、それだけを呟いた。もっと言いたいことがあるはずなのに、それらを全て呑み込んで、出力を最小限にしてしまう癖が彼にはある。
その癖が七十年変わらないせいで、私は今も人の気持ちを図りきれない。
全てを説明してくれたらいいのにと何千回思ったことか。
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