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目の前に現れたのは、大きな宝石だった。
違う。
フラフープの直径より少し大きい宝石からは八本の、細い毛の生えた黒い足が生えている。宝石の蜘蛛だ。そのアンバランスな外見が、余計に恐怖を煽る。
しかも恐ろしいことに、その蜘蛛は一匹や二匹ではなかった。ガーネットの森の出口を覆い尽くしている。バオバブの枝の先にまでそれはいた。
目を細めて視界をぼやかせば、それらはダイアモンドやアメジスト、サファイアやルビー、ターコイズみたいな色のものもいる。
一キロ先からならこの多様な光の共演を楽しめただろう。
けれど数十メートル先にいる、もはや名前を口にするのもおぞましいそれらの大群は、細くて長い脚を、さわさわと音を立てて動かしている。
目がどこについているのかわからないけれど、明らかにそれらは私達を見ていた。
「漣、あいつらは、私達を食べる気かしら」
「さあ、どうだろう」
「いやだわ。食べられるならライオンの方がいいわ」
「ライオンはいないみたいだね」
「タイガーでもいい」
「それもいないみたい」
「ハイエナも?」
「いないね。見る限り、宝石の蜘蛛しかいない」
「私達、ここで死ぬの? あいつらに食べられて?」私は生き物が嫌いではな
いけれど、私の中の定義では、生き物の中に昆虫類は含まれていない。
「一思いに食べられたらいいけれど、もしかしたら、嬲られて、苦しめられながら、少しずつ死んでいくかも」
「ああ、吐きそう。あの足に蹴られるぐらいだったら、そうなる前に舌を噛んで死ぬわ」
「でももしかしたらすごく友好的で、僕達と友達になりたいと思っているかも」
「申し訳ないけれど、それも無理。私達を思うなら、道を開けてほしいわね。私、本当に吐きそうよ。こんな、一体、何千匹? 何万匹かしら? とにかくこんな大群の前に、私達ってとても無力ね。象の前の蟻みたい。
あ、やっぱり蟻はいや。ああ、こんなに馬鹿なことばっかり口にして、私どうかしてるわ。やっぱり宇宙船と一緒にエメラルドの沼に沈んでおくべきだった」
「リサ、うるさいよ。今はとにかく、ここをどうやって切り抜けるか考えなきゃ」
「無理、無理よ。私は今何も考えられないわ。漣、お願い、助けてよ。一生のお願い。私がこんなお願いすることって今までなかったでしょう? それぐらい私は今追い込まれているの。
死ぬのが嫌なんじゃないのよ。死に方ぐらい選ばせてほしいだけなの。この現状を抜け出せたら死ねと言うのならそうするわ。
ああ、ああ、もうやだ。ねえ、道はここしかないの?」
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