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私は思わず後ずさった。その動きと連動するかのように、宝石もどきが私達に近づいてくる。
根拠はないが、その動きを見て、友好的な生物ではないことを感じた。舌なめずりの音が聞こえた気がした。舌があるのかもわからないけれど。
鈍い漣もさすがに危険を察知したらしい。私の手を取り、元来た道を走り出した。
それと同時に宝石もどきが一斉に私達目がけて走ってくる。胴体が重そうな割に、とんでもなく動きは早かった。細くて黒い足が動く様は気味が悪い。
こういう時、見たくないものほどよく見てしまうのは何故なのだろう。
さわさわという気色の悪い音と共に光の波が上から左右から押し寄せてくる。下にもいるのではないかと怖くなる。足先から頭のてっぺんまで悪寒が走り続ける。
手を引かれて走っている間に、突然足の痛みを思い出した。この記憶の蘇り機能はどうなっているのだろうか。大抵がタイミング悪く発動する。
足の神経に針を刺したような痛みを感じ、そのせいで足が縺れた。運動神経がいい人はそこで建て直せたかもしれないが、私には無理だった。
縺れた反動で身体が前のめりに傾き、手をついた。漣を巻き込んではいけないと、引かれていた手を思い切り振り放す。その反動で前転する。
そこで態勢を立て直せるかと思いきや、地面が崩れた。
またか。そう思った時にはもう、身体は地中に吸い込まれていた。
流砂に呑み込まれ、私は息を止める。
どこまで落ちるのか。
砂の粒子は細かく、私の身体中に傷をつける。
その痛みなど、息のできない苦しみに比べれば何ということはなかった。
肺が空気を求めて悲鳴を上げる。
もうだめか。そう思った時、急に身体が自由になった。流砂の底に行きついたのだ。
宙に放り出され、三メートルぐらい落下した。マラカイトみたいな深い緑の地層の上にお尻から着地する。
絶対に青痰ができただろう。半分くらいへこんでしまったかもしれない。擦りながら間抜けな自分に笑いが込みあがる。
今日はやけに落ちる日だ。
こんなこと、百年生きていても一度もなかった。
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