アブルニー

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 とにかくこれでもう、宝石もどきに食い殺されることはなくなった。  少しほっとする。  ここで孤独死するのもいいかもしれない。深い緑の中はとても落ち着く。限りなく濃い緑は闇に近い。  周囲を分析する。  緑の洞のような場所に私はいて、エメラルドの沼の時のように、分岐する道はないようだった。落ちてきた穴も今は流砂で埋まっている。洞は広いけれど、何もない。食べ物も、水もない。空気だけはあるようだ。ここで緩やかにミイラになっていくのは、それほど悪いことではないように思える。  洞の奥に視線を向ける。そこに何か影が見えたからだ。緑色の石みたいだった。なんとなく、それを見に行こうと思いたち、立ち上がって足を引きずりながら近づいていく。  ゆっくりと、近づくにつれ、石ではないことに気付き、では何かということを分析し、その答えに思い付いた時、私は珍しく、本当に珍しく、感動していた。 「こんなところに」  緑の石は、緑の地層の光を反射した、白い骨だった。  白い骨は、その方面の学術知識が足りない私から見ても、地球人の頭蓋骨に見えた。  緑の砂の中に埋まっているその骨をそっと顔の前まで持ち上げる。二つの穴から、緑砂が流れ落ち、その奥に漆黒が見えた。漆黒の先には、何もない。  ここが行き止まりだ。そう語っている気がした。 「私の予想が当たっていれば、あなたは、レックスね。そうでしょ?」  骨格と、そばに落ちている装飾品から、私はそう判断した。いつもレックスが身に着けていたセンスがいいとは言えないチョーカーが骨の傍に半分埋まっていたのだ。たぶん間違いないだろう。  こんな辺鄙な銀河の辺鄙な星に、レックスは一人でやって来て、一人で死んでいった。 「どうしてこんなところへ来たのかしら。まさか七十年経って再会できるなんて思ってもいなかったわ。それもこんなところで。あなたは、私のこと、覚えている? 生きている時はあまり話をしなかったわ。 いえ、違うわね。私があなたと話をしようとしなかったのだわ。あなたは優しくて、私のことをいつも気にかけてくれていた。もちろん下心もあったのかもしれないけれど、それでも、他のくだらない男どもとあなたは違っていた。あの時の私は若くて、それに気付けなかったのね」  私に出会った男性は、統計上八割二分の確率で私に好意を持つ。そのことに気付くぐらいの観察力を私は持ち合わせていた。  だからこそ、その後私が口の悪い、愛想のない女だと気付いた男性が私から心を離して他の女性に心を寄せていくことも気づいていた。それはきっと普通のことなのかもしれないけれど、最初私にしつこく言い寄っていた男性が、寒気がするくらい愛の言葉を囁いていた男性が、私に一、二度冷たくされたぐらいで諦めて他の女性に心変わりする様子を何百回も見ていれば、男性不信になるのも当然というものだ。  永遠の愛などないという結論を持つのも当然の結果だ。  だけどレックスは違った。甘い言葉も囁かなかったし、心変わりもしなかったようだった。もしも地球が消滅していなくて、私が今ぐらい大人であれば、彼ともっと良い友人になれただろう。あの時の私は男性全てが尻軽の猿のようにしか思えなかったのだ。  そう、だから私は、漣に興味を持った。あれほど誰かに一途で、私に一ミリも興味を持たない男性に、初めて会ったのだ。それは心地よいことだった。女性として見られないということが、これほど新鮮で身軽なものだと知れたのは、漣のおかげだ。
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