アブルニー

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「もしかして、リサ、泣いていた?」 「え?」  驚いて手で頬を撫でる。確かに濡れていた。泣くことなどほとんどないので、自分が泣いていることに気付かなかったのだ。自分の感情にも疎いようだ。  漣は私が戸惑っている様子を見て、でもそれ以上何も言わす、微笑んだ。 「行くよ。ほら、ここに掴まって、目を瞑っていたらいい。すぐ着くよ」  漣の胴体に両手を回し、言われた通り目を瞑った。さらさらと砂が流れる音と、心臓がどきどきと脈打つ音が聞こえる。身体が震えるのは、きっと宝石もどきの上に乗っているからだろう。 「漣、レックスに会ったわ」  砂の流れる音は波の音に似ている。それを思うと少し地球が恋しくなった。いくつもの銀河を訪れたけれど、あれだけ大きな水の塊が存在したのは地球だけだった。  そうか、これが故郷を思うということなのか。心地よい驚きが私を満たす。  この懐かしさを、みんなは大事にしているのだろう。 「そう。彼は元気だった?」 「ええ、変わりなかったわ」 「それは良かった」  勇気を出して目を開けてみる。ダイアモンドみたいな透明に輝く丸い砂を浴びて、私達はガーネットの森を駆けていた。赤い森に光の粒が舞っているようだった。宝石もどきの走る速度は中型のバイクぐらいあって、心地よい風が首元を撫でる。  ふと腕を回している漣の腰元に目を向けた。彼の履いている黒いパンツのポケットから、石の棒が見えた。それを見て、驚いて言葉を失う。  漣はフランの力を借りて私を見つけ出したのだ。きっと宝石もどきを手なずけたのもフランの力だろう。何故そんな当たり前のことに思い当らなかったのか。  緑の洞には出口はなかった。レックスだってあそこから脱出できなかったのだ。目を瞑っていて気付かなかったが、脱出する時もきっと漣はフランを使ったのだろう。  彼は私を見つけた。フランの力を借りて。自分の寿命を縮めてまで。    どうして?
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