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地球
地球が消えた時、月にいた科学者達はその原因と、消滅したのではなく何らかの形で移動した、あるいは変形した可能性を総動員で探っていた。
皆寝る間も惜しんで、命を懸けてと言っても過言ではない状態で研究に勤しんでいだ。
あの時のことを今も鮮明に覚えている。僕らは多分、狂っていたのだ。目の前の、地球がないという現実から何としてでも目を背けたかった。否定したかった。
けれど誰がどんな計算をしても、導き出されるのは、地球が消えたという事実だけだった。
「漣、あなた、またハルのことを考えているのでしょう。本当飽きないわね。変態もそこまでいくと神の領域ね」
隣で本を読んでいるリサがいつも通り悪態をついてくる。
ハルとは僕の恋人の名前だ。
ずっと隠していたのだけれど、宇宙船で僕が捨てないでおいた彼女とのムービーを盗み見られ、ばれたのだ。全く、プライバシーなどあったものではない。
彼女が宇宙船を失ってから僕の宇宙船で旅をすることになり、もう二十年近くが経ったが、プライバシーの侵害で訴えようと思うことがしょっちゅうだった。訴える機関がなくて彼女にすればラッキーだっただろう。
彼女と暮らすようになり、最初は毎日彼女の話を聞かされ、ノイローゼ気味になっていたが、三年もするとようやく慣れた。
それは発言全てを受け止めていたのを、フィルターにかけて必要なものだけ抽出することができるようになったということだ。大体彼女が十喋ったとして、拾い上げる必要があるものは一か二だけだ。あとの八か九は聞き流せば良い。それがわかると大分気持ちが楽になった。
彼女と同じ宇宙船で暮らすようになってから、彼女に対する印象がいくつか変わった。
お嬢様で普段の所作が綺麗だったので、日常生活もそんな振る舞いをしているかと思っていたら、普段はかなり自堕落な生活をしているようだった。
例えば、物置に入っていた荷物を出してそこをリサの部屋にしたのだが、頑張って綺麗に掃除して、寝床も整えたけれど、一週間後ちらっと様子を見た時、部屋の中が物置だった時よりひどくなっていた。
朝起きた直後に会うと髪はぼさぼさだし、テンションがとてつもなく低い。つまりは無口なので、朝のリサは少し好きになった。
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