地球

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「これは、地球?」  声も震えている。冷静な自分が俯瞰で僕を見下ろし落ち着けと宥める。僕の中にいる僕はその声を聞いてはいても落ち着くことができない。頭の中は竜巻みたいにぐるぐると廻りながら上昇し、血液はカーレースみたいに速度を上げて走りだしている。 「私もただの似ている惑星かと思って色々な計測をしたわ。計算もした。けれど大気の性質や内部の構造から見ても地球である可能性が極めて高いわね。多少直径が小さくなっているぐらいの違いしかないわ。こんな」  こんなところに。そう言って、リサは口を噤んで、またにやりと笑った。今日のリサはなんだかいつもと違う。彼女も多少興奮しているのだろう。なにせ消滅したと思っていた地球が目と鼻の先にあるのだ。無理もない。 「到着までに二ヶ月かかるわ」  僕の心を読んだかのようなリサの発言。「そんなの一瞬だ」と冷静な自分。いや、もしかしたら興奮している自分かもしれない。その判断がつかないぐらい興奮が大きい。もうどうだっていいとさえ思っている。 「わかったわ。それじゃあ最速でそこに向かいましょう。実はもうすでにそこに向けて宇宙船は動いているの」  彼女はまた口を噤む。本当に珍しい。僕も少しだけ落ち着いてきて、彼女の様子を推し量ろうと思えるぐらいには冷静だった。量ろうとするだけで、理解できたわけではない。  リサは無言のまま操縦席のある方向へ歩いて行った。なんとなく、その軌道を見つめる。  彼女は興奮しているというよりは、少し疲れているように見えた。気のせいかもしれない。彼女は一緒に暮らしていても疲れを見せたことはほとんどなかった。というよりも体力が尽きても言葉は尽きず、口はいつまでも開いているのだ。こんなに言葉を溢れさせる人を僕は他に知らない。  見ていると、リサは急に立ち止まり、僕の方を振り返った。僕と視線が合致する。  彼女の褐色の瞳が僕を真っ直ぐ見つめている。
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