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「余計なお節介だと思うけれど、漣は起伏が激しいし、ずっと谷底にいられても困るから一応聞いておくわね。
あの惑星は地球じゃないかもしれない。地球だとしても、ハルはいないかもしれない。ハルがいても、誰か違う恋人がいるかもしれない。恋人はいないかもしれないけれど、ハルは死んでいるかもしれない。
あの惑星が地球で、ハルがいて、あなたと再会して、また恋に落ちるなんて奇跡はほとんどないと思うわ。それは私の計算だけれど。
ねえ漣、あなたはそれでも本当に地球に行く? 夢は追い求めている間が一番楽しいと言うわ。これは意地悪じゃないのよ。私、あなたが心配なの。あなたが求めている結果にならなかった時に、あなたがどういう行動に出るのか。計算が得意な私もその点は計算できないのよ。本当あなたはいつも予測不能な行動をするから。
だからせめて心積もりをしておいてほしいの。夢は破れて散っていくこともあるんだって。そういうこともあるんだって、常に自分は宇宙の中心にいると思ってる漣には知っておいてほしいのよ」
心配しているといいながら所々悪口が入っているのは彼女らしいと思ったが、今の僕は何でも許せる気分だった。何を言われても笑って流せる自信がある。
「漣、あなた聞いてるの? あなたが無言で笑っていたら不審者として捕まるわよ。視線の先に幼女でもいようものなら言い逃れできないんだから。警察機関がなくてあなたは感謝すべきよ」
やはりリサが本気を出すと僕の菩薩もどきの心の在り様では太刀打ちできないようだった。彼女対本物の菩薩の戦いを見てみたいと少し思う。
ただ言い方は辛辣でも言っている内容は彼女の優しさなのだろう。思う結果が出なかったときに落ち込むなよということを言いたいのだと僕は判断した。そういう意味変換機能が備わったのも最近だ。
「あなたは、もし思う結果が出なかったら、どうするの?」
落ち込むよ。そう言おうとしてやめる。彼女が聞きたいのは、そういうことではないのだ。諦めるのか、また追い求めるのか。
お前は何を選択するのか。
彼女の褐色の瞳がそれを僕に問うている。彼女はいつも、僕にそれを問う。
僕をいつも悩ませる。
僕が答えに迷っている間に、彼女は見限って操縦室へ向かっていってしまった。その後ろ姿を見つめていると、ふと疑問が生まれる。
彼女はどうして僕についてくるのだろうか。僕は僕のやりたいことをやっているけれど、彼女に対する利点は何一つない。何もやることがないから、ただの暇つぶしだと言っているのを聞いたことがある。その時はそうかと思ったけれど、よく考えてみてみれば、暇つぶしで百年近くも人を追い回す方がよっぽど変態と言える。
今度変態と言われたらそう言い返そうと思い、やめた。きっとあの手この手を使って、彼女は僕の言い分を上回ってくるんだろう。
彼女の口の滑らかさには、きっと一生叶わない。
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