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リサはひとしきり夜空を眺めた後、僕が持ってきたタブレットを手に取った。何か操作をしている。僕は特に興味がなかったので、目を瞑って風の音を聞いていた。
袖が引かれた気がして、それを中断する。引いたのは、リサだった。タブレットを僕に差し出している。見ろということらしい。
「現実の話をするわね。漣、あなたは嫌でしょうけど。気付かなかったかもしれないけれど、私は着陸した時にいくつかのドローンを飛ばしていたの。カメラ付きよ。そこから飛んできてる映像をタブレットに今映しているわ。見て」
タブレットの画面が四分割され、それぞれ違う景色が映っている。飛ばしたドローンが映している景色だろう。右下には変化していく二つの数字。経度と緯度だろう。ドローンがどこを飛んでいるのかそれでわかるということだ。
「上の二つは日本ね。右は北海道あたり。左は四国あたりだわ。右下はアメリカね。左下はヨーロッパ、フランスかしら。ああ、凱旋門が見えるわね」
どの映像も暗くてほとんど何も見えない。住宅街の上を飛んでいても、光はなかった。動くものもない。僕はその映像を見ていたくなくて、目を背けた。けれどリサが両手で僕の顔をタブレットに向ける。
「東京を飛んでいるドローンの映像に切り替えるわ」
タブレットの中の景色が変わる。四分割されていた映像が一つになる。相変わらず暗いが、三角の、見覚えのあるシルエットが映っている。
東京タワーだ。赤と白に光る東京タワーが好きだったが、今はただ、静かにそこに建っているだけ。
「あなたの考えていることを当てましょうか、漣」
やめてくれ。そう言うこともできないまま、項垂れる僕にリサは語り掛ける。
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