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「もしかすると地球が移動した影響で毒素みたいなものに汚染され、人々は地球を放棄せざるを得なかったのかもしれない。人々は違う星に移動したのかもしれない。そんなことを考えているんじゃないかしら。違う?
確かにその可能性はある。けれどそう考えるとおかしなことがあるわ。どうして生き物が一匹もいないのかしら。虫は? 鳥は? 犬や猫すらいない。死んでしまったかもしれないわね。でもそれなら死骸はどこにあるの?
そしてどうしてメンテナンスしていない建物達は風化も劣化もせずに私達が地球に住んでいた時と変わらない姿で今もあるのかしら。ハルとあなたの家にあった水の賞味期限の意味は? それらはどうやって説明する?」
「やめてくれ」
ようやく絞り出た声も、リサには効果をなさない。
「おそらく、おそらくよ。ここからは私の推測になるわ。地球は何らかの方法でここまで移動した。たぶん一時的なブラックホールができて地球を呑み込み、でもそのブラックホールが消滅して、その衝撃で地球はここまで飛ばされた。きっとそんなところね。
その衝撃で地球は消滅しなかったものの、縮んでしまった。圧縮されたと言った方がいいかもしれない。普通は膨張するはずだけれど、なぜかそうなった。そのせいで、時を止めたのよ、地球は。この星は、生きた化石。生きているけれど、死んでいる。ここは、もう、私達の知っている地球ではないのよ」
「やめてくれ。それなら、人間はどこへ行った。動物達は? 建物や自然はそのまま残って時を止めているというのなら、人間はどこへ行ったんだよ。時を止めて、化石みたいに突っ立っているならわかるけれど、どうして消えているんだよ」
「若返りの星を、私達は見たでしょ。これもまた、推測だけれど、その星に植物以外の生き物はいなかった。たぶん、人間や動物の身体は、早い時間の流れや、ブラックホールでの空間移動のショックに耐えられないのよ。
でも、そうね、私の直感が正しいなら、死んだというのとは違うと思うわ。呼べば出てくるんじゃないかしら。漣、タブレットを持って、ハルを呼んでみて」
僕の頭はパニックを起こしていて、リサの言っていることの十分の一も理解できていなかった。自棄になって言われた通りタブレットを持って「ハル」と呼んでみる。
川辺には僕らしかおらず、風があるだけで人間はおろか生き物の気配すらない。悔しいけれど、リサの言っていることは当たっているのかもしれない。というか、そうなのだろうと納得している自分がいて、それを認めたくない自分が今表面で暴れているに過ぎない。
怒りにも似た感情に乗せて、僕は何度もハルを呼んだ。喉が潰れるんじゃないかというくらい、何度も何度も、叫ぶように呼んだ。
何も起こらない。地球は静かだった。
僕ら以外、生きているものはいないのだ。
わかっていた。
きっとリサは、望みはないんだと、僕に言いたかったのだろう。だからこんな無意味なことをさせたのだ。
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