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ハルはいる。
僕は彼女との再会を果たした。
僕が望んでいた通りの現実なのに、どうしてこんなに悲しくて寂しいのだろうか。
彼女の肉体がもうないというだけで、僕はまた貪欲な自分に気付く。
僕は、肉体を持つ彼女と再会し、抱きしめて、キスしたかったのだ。
泣くなと言われたのに、涙が止まらなくなってしまった。百三十歳の爺が情けない。その情けなさがさらに涙を誘った。
「あなた達はもう肉体をもつことはできないの? 試したことはない? 漣は変態だから、タブレット越しにハルとやり取りするだけでは満足できないのよ。どうしても姿を見たいのだと思うわ。できないのかしら?」
僕の肩を持ち、タブレットを覗きこむようにしてリサが僕の代わりにハルと話す。あんまり肩を強く掴むので、痛くて涙が引っ込んでしまった。
暫くの沈黙の後、タブレットの真っ白な画面が歪んで、女性の画像が出てきた。ハルだ。
『これではどうかな?』
ハルの声だ。僕はまた泣いてしまった。夢にまで見たハルが、タブレットの中に、いる。
「すごいわね。すぐに進化する。きっと地球上の思考が集まって知力を結集してやっているんでしょう? 人口知能と考えると理解しやすいかもしれないわね。ただ、それだと実体がないから、漣は満足できないわよ、ね」
リサの「ね」は僕の反論を許さない。けれど彼女の言う通りだった。僕はどんどん貪欲になっていく。ここまできたら、実体のあるハルに会いたかった。叶うならば、抱きしめたかった。変態と言われようが、そうしたいと願ってしまう。
また沈黙。
リサの言うように、縛りがなくどこへでも行き来できる思考達が集まって、僕の難題をどう解決するかを相談しているんだろう。タブレットの中のハルは目を瞑っている。僕はそれを眺めて待っていた。
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