地球

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『肉体を作ることはやっぱり無理みたい。もう有機体ではないから。でも、リサさんがさっき私達の部屋に入った時空気が重いって言ってたけれど、私達を一つに集めて、濃度を上げれば、存在を感じられるぐらいの、形をつくることはできるかもしれない』  タブレットの中のハルは、僕の思い出の中のハルと同じように笑い、同じ声で話し、同じように僕を見つめてくる。でも、もう、僕の出会いたかったハルじゃない。そのことを感じながら、でも最後の希望に縋るように、僕はハルの提案を受け入れた。  少し時間がかかるらしく、僕はタブレットを持ってその場で待っていた。  目を瞑り、息を潜める。空気を感じる。集中すれば、より鮮明に大気を漂う思考達の存在を感じ取れるかもしれないと思ったのだ。  地球上で、生命の存在はなく、自然や人工物は形のみ残っているものの、動物達は形を保つことができなくなった。  音はなく、匂いもなく、宇宙から届く風だけが時折辺りを漂い、地球は化石になった。  僕もこのまま化石になってしまおうか。  息を止め、目を瞑ったまま、ここで、生まれ育った土地で、時を止めてしまおうか。けれど僕がそうしても、ハル達みたいに思考のみの存在にはなれない。僕が一人、死んでいくだけだ。それは途方もない孤独のような気がした。 『漣』  声がして、目を開ける。  目の前に、ハルがいた。小柄ではないけれど、華奢で、髪の長さは肩より少し長いくらいに伸ばして、笑うと目尻に皺のできる、ハルがいた。
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