地球

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 そんな気がした。けれど星明かりに照らされているのは、ハルの形をした、透明な、霧のような密度の、思考達。確かに形はハルだけれど、それはもう、ハルとは別物だった。 『ごめんね、漣。寂しい想いをさせて。ずっと、私のことを探してくれていたんだね』  僕は右手を上げた。ハルの形をした思考達も、それに合わせて左手を上げる。  触れ合っているように、見えた。  見えるだけで、それは幻みたいだった。  抱きしめたくても、抱きしめると拡散してしまいそうな儚さがあって、怖くて、僕は動けなくなった。 『ごめんね、漣。もう、無理なんだよ』 「無理じゃない。僕は今、若返りの研究をしているんだ。君の思考の時間を巻き戻せば、君の肉体が存在した時まで巻き戻せば、ハルは生まれ直せる」 『私だけそんなこと、できないよ』 「じゃあ宇宙全体を若返らせて、地球が太陽系から消える前まで遡る。そうすれば地球は生き返るし、地球のいた人達みんな肉体を取り戻せる」 『漣、聞いて』 「ここは暗いだろう? 太陽の光が恋しくない? ハルが好きだった焼肉、ま た食べに行こうよ。思考じゃご飯が食べられない」 『漣、聞いて』  ハルの声は、ずっしりと重く僕の胸に響く。でもその重さを、僕は無視した。喋り続ける。ハルの言葉を聞いていたくなかった。 『漣、お願い。私の話を聞いて』  啜り泣くようなハルの声。僕は口を噤んだ。  僕はいつも自分勝手で、彼女を泣かせてばかりいた。月に研究へ行くと言った時も、ハルは寂しいと言って泣いた。応援してるとも言ってくれたけれど、きっと一人地球に残されるのは、心細かったに違いなかった。
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