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『私達は、それを望んでないの。ここへ来て百年になるわ。私達はもう、思考だけの存在に慣れ過ぎてしまったし、今の状態を気に入ってさえいる。身体は、必要ないのよ。私達にはもう、必要ないの。
身体がなくとも私達は自由だし、身体がないからこそ、私達は一つなの。漣も感じていると思うけれど、私はもう、あなたの知っているハルじゃない。今話しているのはハルとしての私だけれど、私と他の人たちの境界線は酷く曖昧なの。すぐに溶けてなくなるぐらいよ。
私達は、一つなの。それはね、説明しにくいけれど、とても満ち足りていることなの。寂しさはないし、争いだってないわ。私達は、幸せなの。今の状態のまま、存在し続けていたいのよ』
ハルの形が動いた。右手が僕の頬に触れる。触れたところに電流が走って、少しくすぐったかった。
『愛しているわ、漣。だからあなたには、あなたの人生を歩んでほしい』
「君に出会い直すことが、僕の人生だったんだよ」
『そうね。でも、あなたには私だけじゃないはず。ほら、私ばっかり見ていたら、大事なことを見落としちゃうよ。私のことは忘れていい。忘れなくてもいい。
でも、あなたは目の前にあることをもっと大事にして。もう、手を離さないように』
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