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ジ・ギエル
「サザナミはどこだ?」
私の問いにイヤホンが答える。熱探査機や探査映像等の情報が瞬時に送られてきて、サザナミはCIX8ホールにいることがわかる。ここから五十メートルくらい上の区画になる。移動用の自動チューブに乗り、CIX8まで行く。いつも通りそこを歩くのは私だけのようだった。
CIX8ホールの扉を開ける。そこは実際の宇宙を観察できるプラネタリウムで、昔我々のいる銀河を調べていた研究者が使っていた場所だ。今は無駄だと言って、誰も使わない。いずれ別の作業場になるだろう。
「時間だぞ、サザナミ。契約違反だ」
黒い艶やかな髪が舞い、サザナミが視線を画面から私へと移す。背後の黒い宇宙よりも、彼の瞳は黒く、星を内包しているように見えた。
彼は五日と十三時間前にジ・ギエルに来た。宇宙船の調整の為だ。彼の宇宙船は地球製の古い型で、あらゆる部分に不具合が生じていた。今まで無事でいたのが不思議なくらいだった。
ジ・ギエルのものに替えることを薦めたが、この船が気に入っているらしく承諾しなかった。ではエンジン部分をジ・ギエルの半永久的エナジーに変更すればいいと薦めると、それも嫌らしく、何も言わず笑うだけだった。
断るならはっきりと言えばいいと言うと「半永久というなら、壊れる可能性もあるでしょ。旅の途中で壊れて修理の為にまたこの星に来るのは時間の無駄だ。どこででも補給できる宇宙波を主体としたエンジンのままがいい」と主張した。
それではジ・ギエルのエナジーをサブエンジンにすればいいと言うと、それを買うだけの手持ちがないというので、私の研究に無償で協力することを条件に提供するという約束を交わした。
彼がどれだけ長旅するつもりなのかは知らないが、どうやら彼にとっては良い取引だったようだった。すぐに快諾した。
本当は金銭のやり取りという無駄な行為はこの星にはないのだが、それは黙っておいた。研究の為だ。
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