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「夏帆の好きだった人、何て名前だっけ?」
「神楽くん」
「そうそう、神楽くんだ!」
夏帆は、剣道部の神楽くんに3年間片思いしていた。
一度もクラスが一緒になったことはないし、ほとんど話したこともない。
入学した年に行われた高体連の壮行会。
各部が出場する大会への意気込みを語るこの行事で、
全校生徒の前に剣道着姿で現れた神楽くんを一目見て恋に落ちた。
後から知ったことだが、
神楽くんは中学の頃から女子からかなりモテたらしく、
この高校でも学校一のイケメンと言われていた。
夏帆の外見は、決して可愛い方ではない。
どちらかと言えば、可愛い子の隣にいる引き立て役のような存在だった。
そんな自分が学校一のイケメンと付き合うことを夢見ていたなんて、
一体何を考えていたんだろうと夏帆は思い返して恥ずかしくなる。
しかも、ほとんど話したこともないのに告白までしようとしていたのだから
当時の自分は思想がかなりぶっ飛んでいたに違いない。
教材や汗、ホコリなど、色々な匂いが交じった学校独特の匂い。
決していい匂いではないが懐かしさから、
夏帆は胸いっぱいに教室の空気を吸い込んだ。
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