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「なあに、不貞腐れてんの。ああ言うしかないでしょ?」
「別に不貞腐れてねーし!」
「ほら、飲み物来たよ。乾杯しよう」
テーブルに運ばれてきたグラスを持ち上げる。透は白のスパークリングワインで、俺はオレンジジュース。なんか俺、ガキ臭い。せめてジンジャエールにすればよかった――と、どうでもいいことを後悔しながらグラスを軽く合わせる。
ワイングラスの琥珀色の泡が弾けるのをぼうっと見つめていると、透が目を細めて笑う。
「お誕生日おめでとう、葵。生まれてきてくれてありがとう」
「え……あ……ありが……と」
(なんだよ、そんなこと言うなんてズルい……)
乱された心を取り繕うように、ぐいっとオレンジジュースを飲んだ。
一言一句で、怒ったり、ドキドキしたり、俺の心はいつだって透に占拠されている。こいつは何で人の心を揺さぶるのが上手いんだろう。
「透……俺……幸せだよ」
「奇遇だね。俺も、そう思ってたところ」
「うるせぇ、黙れ」
「何で!?」
(心臓が幾つあっても足りねぇからだよ、バカ。これ以上、惚れさせるな)
透はこの先、俺以外誰も愛さない。俺だけを見てくれると誓ってくれた。実質プロポーズみたいなもんだ。その約束が果たされれば、ずっと一緒に居られる。その未来を想像すると幸せなはずなのに漠然とした不安に駆られる時がある。その不安がどこから来るのか何によるものなのか、俺は心の底でわかっていた。
「葵ちゃんは進路決めた?」
まるで心を読まれているかのような問いに、俺は拍子抜けた声を上げる。
「え、何で急に?」
「二学期の進路希望調査、白紙で出したって担任の先生から聞いたから」
「ああー……まあな」
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