恋するヤンキー仙崎葵誕生日

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 11月に入り、季節は冬に移り変わろうとしている。 放課後、教室を抜けて向かった先は保健室。怪我をしたわけでも体調不良でもなくて、目的はただひとつ。恋人に会うため。 一緒に暮らしているのだからわざわざ会いに行く必要はないと、頭ではわかっていても俺の足は自然とあいつの所へ向かってしまうのだった。他の生徒がいないことを願いながら保健室のドアを開けると透は回転椅子ごと振り返った。 「どうしたの?」 まるで来ることを予測していたような笑みを浮かべて、わざとらしく聞いてくる。全てを見透かされているような気がして、ムッとしながら聞き返した。 「理由がなくちゃ来ちゃいけねぇの?」 「そんなことないよ。来てくれて嬉しいよ」  おいで――と、優しい声を響かせながら両手を広げる。自分でも単純過ぎると思いつつも吸い寄せられるように透の胸に飛び込んだ。ほんのりとタバコの匂いが漂ってくる。 (こいつ、また隠れて吸ってたな) 「今日なんだけどさ、久しぶりに外食しない?」 「外食? どこ行くの?」 「それは行ってからのお楽しみ」  ふと、今日が何の日だか思い出す。11月2日、俺の誕生日だ。誕生日のお祝いをしてくれるのかもしれない。 「一回、家に帰って着替えておいで。俺はそのまま行くから駅で待ち合わせしよ」 「わかった。んじゃ、また後で」  それから数時間後――。 透に言われた通りに私服に着替えて、駅で待ち合わせする。電車を乗り継いで辿り着いたのは南青山の外苑西通りにあるフレンチレストランだった。  透が入り口で出迎えてくれたウェイターに名前を告げると、店の奥へと案内される。どうやら事前に予約してあったみたいだ。 歩きながら店内を見渡す。本格フレンチというよりはカジュアルな印象で、敷居はそこまで高そうには見えない。お洒落な雰囲気の店内で、席はどこもかしこも埋まっているので人気店だと伺える。  ふと、三ヶ月待ってやっと予約が取れたと誇らしげに話す男性客の会話が耳に入った。それを聞いた彼女は嬉しそうに微笑んでいた。 周りはカップルの利用客ばかりで、とても男同士で訪れる店ではない。 (俺たち……場違いにも程があるだろ) 「気に入らなかった?」  透はメニューから顔をあげて、少し心配そうな表情で聞いてくる。 俺は首を横に降った。
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